何をするにも何をしないにもお金がかかる時代
男は変なことを思いつく。
「時代に逆行してみるとどうなる?」
※
冬前にある家の引っ越しを手伝った男は、
その家の主人から
「ウチの庭なんにも使ってないから畑でもこしらえたら?」と言われた。
あと1か月もすれば春が来るこのタイミングで、男はそのことを思い出す。
男はここ数日来たお客さんの話を思い返していた。
- やりたいことがないから生きてても面白くないという女性
- 1年間家で年金生活をしてみたが、やることがなくなったという男性
そう!人は何かをしていないとふさぎこんでしまう生き物なのだ。
ニート生活を経験していた男はなんとなくその二人の気持ちがわかる気がした。
なので「自給自足でもしてみては..」
と思ったのだが、「いやいやそんな簡単じゃないぞ」
と思い直した。なぜなら、男は農作業の大変さをちょっとだけ知っていた。
農作業をギブアップした経験が2度あるのだ。
農家さんのお手伝いをして
「これは大変だ。身がもたん」と。※
そんなことを考えながら、フラフラとなじみの本屋を歩いていると気づいたら農業コーナーの前に立っていた。
途中、知り合いの看板屋に声をかけられたが、物思いにふけっていたのでちゃんと返事を返したかはあいまいだ。
男は自問自答した。
「やっぱり農業に興味があるのか?」
たしかに祖父祖母の代まで
男の家は先祖代々農家であった。また、しばしば無性に自然の中で働きたい衝動に駆られるときもある。
でも体力的にはきびしい。
そんなジレンマのなか、
一冊の本が目に飛び込む。『耕さない農業』
パラパラとページをめくる。
どうやら雑草..というか
自然をまるごと生かした農業のようだ。「フムフム…土草虫ミミズ微生物
それぞれがそれぞれの働きを持っててその働きが循環して作物を育ててるのか..
なるへそ」男は妙に感心した。
「もしかして自然は人が手を加えなくても、そのままで全てうまくいってるのではないか」
男はまた思いにふけった。
「土草虫ミミズ微生物に役割があるように、オレや他の人にも本当は何か役割があるのではないか?」
「何をしていいかわからないというオレ達はその役割に気づいていないだけなのでは…」
男はひとしきり物思いにふけると、現実に意識を戻した。そして決めた。
「なんか作物つくってみるか」
自給自足。
人も物もお金も何もかもが大規模化に
飲み込まれている現代「その流れにあえて逆行してみようか」
という好奇心もあった。男は畑予定地の主人に連絡した。
「2月5日行ってもいいですか?」
そして、畑づくりに付き合ってくれそうな別の男に誘いのLINEを送った。
つづく